2005年09月02日(金)

霧積む里

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   帽 子
母さん、僕のあの帽子、どうしたんでせうね?
ええ、夏、碓氷から霧積へゆくみちで、
谷底へ落としたあの麦わら帽子ですよ。

母さん、あれは好きな帽子でしたよ、
僕はあのときずいぶんくやしかった、
だけど、いきなり風が吹いてきたもんだから。

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母さん、あのとき、向こうから若い薬売りが来ましたっけね、
紺の脚絆に手甲をした。
そして拾はうとして、ずいぶん骨折ってくれましたっけね。
けれど、とうとう駄目だった、
なにしろ深い谷で、それに草が背たけぐらい伸びていたんですもの。

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母さん、ほんとにあの帽子どうなったでせう?
そのとき傍らに咲いていた車百合の花は
もうとうに枯れちゃったでせうね、そして、
秋には、灰色の霧があの丘をこめ、
あの帽子の下で毎晩きりぎりすが啼いたかも知れませんよ。
母さん、そして、きっと今頃は、今夜あたりは、
あの谷間に、静かに雪がつもっているでせう、
昔、つやつや光った、あの伊太利麦の帽子と、
その裏に僕が書いた
Y.S という頭文字を
埋めるように、静かに、寂しく。

『西条八十詩集』より

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大正11年に刊行されていた子ども向けの絵雑誌、「コドモノクニ」創刊号にこの詩が載せられた。
まだ軽井沢が避暑地として脚光を浴びる以前、この霧積の里が避暑地として賑わっていた。
勿論、江戸時代の終わりにこの地に湧く温泉を発見したことがきっかけであった。
勝海舟は皮膚病の湯治のためにこの地を訪れ永く滞在した。
伊藤博文ほか45人の政治家が明治憲法の草案を練り上げるために逗留し、与謝野晶子は籠でこの地を訪ねている。
政界人や文人などの別荘が建ち並び避暑地として賑わったそんな歴史を秘めた霧積もやがて開け行く交通の発達によりいつしか秘湯の里へと変わっていく。

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昨日、碓氷峠の峠路で出会った「霧積へ2km」の標識はこの山里を訪ねるには充分のきっかけでありました。
西条八十氏のあの詩はやがて森村誠一氏の目を通して再び「人間の証明」としてこの世に脚光を浴びるのである。
あれからでも30年、霧積館の名物六角形の浴槽に身を沈め、詩の持つ命の力をしみじみと感じながら想いを深くする旅の途中・・・

霧積温泉「きりづみ館」にて

今は二軒の旅館が1kmの間隔で密やかに
息づいている。

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伊藤多喜男inふなばし

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現代のタイムマシンは山の秘湯から一気に時空を超え夕暮れの船橋で行われる伊藤多喜男さんのコンサートにすべり込ませてくれた。
「民謡」の復活へ向けて、独自の活動の場を切り開いてきた魂の歌い手伊藤多喜男のコンサートである、何をおいても聞き逃すことはできない。
「多喜男のソ−ラン節だよinふなばし」
と銘打ったコンサートは和楽器、洋楽器を見事にアレンジしたTAKIO BANDにのって多喜男節が炸裂する。

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浅野町子さんの切れのいい和太鼓が気持ちを昂ぶらせていく、
山中信人さんの津軽三味線が唸りをあげる、バンドマスター米谷 智さんの尺八が魂を吹き込む、やがてチェロが、ヴァイオリンが繊細さを、ピアノとドラムとベースが確りとリズムを造りだすと多喜男さんの高音の歌声が牛深三下り〜ハイヤ節を、津軽じょんがら節をホールいっぱいに響き渡らせていく。

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生まれ育った町や村は、

いつまでも故郷でありつづける。

自分なりの想いで、自分なりの方法で、

僕は唄を通して故郷を見つめている。

       〜 伊藤多喜雄 〜

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アップテンポの八木節で会場を興奮の坩堝に巻き込んでそのままアンコールのソーラン節へとなだれ込む。
大漁旗が風を起こし、若者から老人まで会場はソーラン一色に染まっていく。
一人だけでは決して不可能なこの弾ける体の躍動は此処に集いあった人たち全ての思いの束となって何時までもこだまし続けておりました。

内山さん素晴らしいコンサートでしたよ。
皆さんのパワーを分けていただいた興奮の宵になりました。
感謝!

船橋市民文化ホ−ルにて

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